ある方から「量子力学について教えてください」と言われたことがきっかけで、改めて「量子力学って何だろう？」と考えてみた。

インターネットで検索すると、「量子力学は意識の科学」だとか「量子力学で人生が変わる」だとかいうサイトが山ほど出てくる。でも、そんなのは全部嘘っぱちだ。量子力学は意識を表現するものではない。あくまで物質を表現する理論なのだ。

物質は単に粒子の集まりではない

量子力学が教えてくれることを一言で言うなら、「物質をただ粒子の集まりだと思ってはいけない」ということだろう。粒子として見えるものだけ見てたのでは、実はこの世界の成り立ちはわからない、ということだ。

粒子はそれだけで存在しているのではない。粒子を粒子たらしめる「何か」があって、それは空間・時間に広く広がっている。決して粒（空間内の一点）だけではないのだ。

そして、その「何か」は波動の性質を持って広がっている。ただし、これは普通の数（実数、2乗したら0以上になる数）だけで表せる波動ではない。虚数（2乗したらマイナスになる数）も使わないと表せない、不思議な波動なのだ。こうして、「何か」がもつ波動の性質を、虚数を使って表したものを「波動関数」と呼ぶ。

量子力学は、この波動関数を使って、ある時刻ある場所で粒子が観測できる「確率」を教えてくれる理論なのだ。

物質が本当に粒子の集まりならば、ある時刻ある場所に粒子がある確率は1か0になるはずだ。粒子がそこに「ある」か「ない」かしかあり得ないからだ。

ところが、量子力学はそれは間違いだという。物質をただ粒子の集まりと見てはいけない。粒子を粒子たらしめる「何か」があって、それがある場所ある時間にある確率（1と0の間の数）で粒子を作り出し、または消し、それらが集まって物質は作られているのだ。

粒子を粒子たらしめる「場」がある

では、その「何か」とは何だろうか。量子力学では、それ以上のことはわからない。原子の中の電子など、極めて限定された状況にしか使えない理論だからだ。いろいろな粒子が自由に動き回って、お互いに影響を与え合うような状況を説明できる理論ではないのだ。

そういう状況を説明できるのが、量子力学の進化系である、場の量子論である。粒子を粒子たらしめる「何か」は、場の量子論では「場」と呼ばれる。

それぞれの粒子に、その粒子を粒子たらしめる場がある。電子には電子場が、陽子には陽子場が（陽子はクォークという粒子が集まってできているので、実際にはクォーク場を考える）、光の粒である光子には光子場（＝電磁場）があるのだ。

それぞれ粒子の性質によって、場の数学的な表現が決まっている。もちろん、この場は波動の性質を持っている。同時に粒子の性質（1個2個と数えられる性質）も持っている。この場の表現を使って、様々な粒子の現象が起こる確率を教えてくれるのが、場の量子論なのである。

意識とまったく関係しないのか？

さて、ここまで考えた上で改めて「量子力学は意識の科学ではない」というところに立ち返ってみたい。粒子の観測と意識の関係が議論されることもあるが、量子力学が意識の何たるかを説明することはない。

意識とは何か？という問いに明確な答えは今のところ無いが、現在の科学で扱えるものに限定すれば、「脳の反応のパターンで表現できるもの」と答えるしかないだろう。

MRIに入って、何かを見たり聞いたりすると、脳の一部が反応して、脳細胞の活動が活発になり、必要になる酸素が増えて、その周辺で血流が増える様子が具に観察できる。

このとき脳の一つの部分が反応するとは限らず、複数の部分が同時に反応して、反応のパターンを作る。この反応パターンは、何を見るかで変わるし、同じものを見ても人によって変わる。

ここから僕の妄想が入るが、この脳の反応パターンを「粒子」の集まりと思ってみてはどうだろうか。一つ一つの脳細胞の反応が、ここで言う「粒子」である。脳細胞の反応をMRIで観測することを、「粒子」を観測することと見做すのである。

そして、量子力学のように、この「粒子」を粒子たらしめる存在があり、それこそが意識ではないだろうか。意識は単に脳の反応の集まり（パターン）ではない。脳の反応を起こさしめる「何か」だと考えてみるのだ。

ここで量子力学を思い浮かべる根拠はあるだろうか。脳の反応パターンが起こる確率は1か0ではなく、いろいろなパターンが起こり得る、ということくらいか。実際、同じ人が同じものを見ても聞いても、脳の反応パターンは同じとは限らない。さらに、「脳の反応パターン」と言っても、反応する脳細胞と反応しない脳細胞がきれいに分かれるわけでもない。脳全体で常に小さな反応がノイズのように起こっていて、無数の波形を作っている。

そういう現象を見ると、脳の反応パターンで意識のすべてが説明できるとは、どうにも思えない。むしろ様々な反応を起こさせる「何か」があって、それこそが意識と呼ぶべきものではないか、と僕には思えるのだ。

そして、その「何か」である意識は、一人一人異なる振る舞いをするものであり、常にお互いに影響を与え合っている。つまり、一人一人の意識は独立しておらず、ある意味で繋がっているのである。すべての人の意識を繋げた総体は、社会科学などで集合意識と呼ばれるものに近いだろう。

乱暴な議論ではあるが、こんな感じで量子力学の考え方が「意識とは何か？」という問いに答えるヒントになることは、あり得る気がしている。その意味で「意識の量子力学」は作れてもおかしくないかもしれない。ただし、量子力学が意識の理論でないことは、繰り返しておきたい。

脳の反応パターンを作る、意識の波動がある？

もし本当に脳の反応パターンを「粒子」の集まりのように見做したとき、その「粒子」を粒子たらしめるのが意識であるなら、意識もまた波動のように広がっているのだろう。この意識の波動は、お互いに影響し合う、すべての人々の意識に広がっているはずの波動だ。

人々は常にこの意識の波動を受けながら、脳内に反応パターンを作って、生きていることになる。そして、その脳反応パターンをきっかけに何らかの言動を起こせば、それが新たな意識の波動を作り、自分や他人の脳反応パターンに影響を与えることになる。

所詮、肉体を持った人間は、脳反応パターンを作り合うゲームをしているようなものだ。ならば、その反応パターンは多様であればあるほど面白いはずだ。言い換えれば、多種多様な考えが認められるべきなのだ。ただし、その多種多様性を否定するような考え（反応パターン）は好ましくないだろう。それよりも、より多種多様な考え（反応パターン）を目指して、その試行錯誤に自分のエネルギーを使った方が良さそうだ。

そう考えると、いろいろ批判はあれど、ダイバーシティ（多様性）を認めようとする国際的な風潮は、決して間違ってはいないのだろうという気がする。

意識の波動で戦争は止められるのか？

僕がそんなふうに考えたのも、ロシアのウクライナ侵攻に対する、人々の反応を見てのことだった。SNSなどで「戦争が一日も早く終わるように、皆で祈りましょう」という呼びかけを目にすることが増えてきた。

多くの人が真剣にそう祈れば、その意識が自分の言動となって表れて、他の誰かに影響を与えることになり、意識の波動が広がっていくのだろう。その影響で戦争が早く終わる確率は、どのくらいなのだろうか。もっと直接的に言えば、そうした祈りがロシアの大統領の脳活動パターンに影響を与える確率は、どのくらいなのだろう。

人々の意識がお互いに影響を与え合っている以上、ゼロではないのだろう。そのゼロではない可能性にかけて祈るのは、意味のあることと言えるだろう。

戦争で解決しようとするのは、あらゆる意味で多種多様性を否定する考えであるから、好ましくないのは言うまでもない。その上で、戦争で解決しようと考える人に影響を与え、その考えを変化させるには、祈る人々はどんな考え（脳反応パターン）をすると良いのだろうか。

一口に「祈りましょう」と呼びかけても、考えることや脳反応パターンは人それぞれだ。その中で、どういう脳反応パターンだと、戦争を早く終わらせる影響があるだろうか。逆に、考える内容によっては、戦争を長引かせてしまう可能性だってあるだろう。

確かなことは何も言えないが、一つ確からしいことを言ってみると、既存で既知の考えを抱きながら祈っても、大した影響はないだろうということだ。そういう考えが集合意識にある中で、その人は「戦争で解決しよう」と思ったのだから。逆に、自分の考えを縛り付けず、あれこれ自由に脳を遊ばせて、今まで自分が作ったことのない脳反応パターンを作ることができたら、良い影響があるかもしれない。新しい脳反応パターンの影響が意識の波動で伝わって、「戦争で解決」に凝り固まったその人の脳反応パターンを、新しいものに変えることもあるだろうからだ。

そんなわけで、僕は今日から「今まで自分が作ったことのない脳反応パターンを作る」努力をしてみようかと思った次第である。

量子力学からすっかり話が逸れてしまった。しかし、すべてのきっかけは「量子力学について教えてください」というリクエストであったので、ここは良しとしたい。